そこに求めるもの

いい思い出なんて一つも無かったような気がします。居心地が良かったのかな

勉学に励み過ぎて人よりも長く滞在してしまった学生時代に通いつめたそのお店は、世のスロッターの間で今は聖地のような扱いを受け営業を続けています

年に一度は訪れるようにしてるのですが、相変わらずの佇まい。なぜか洗濯機が店内に設置されているし、店内の天井も低い。千円札しか受け付けないコインサンドに買取店は階段を登った二階

変わったのは店員さんが若返った事と台のラインナップじゃないか？いつ行っても当時にタイムスリップした感覚を味わえます

パチスロが好きすぎて勝つことよりも楽しむことが最優先だったあの頃の私にとって、その店が家の近所にあるというだけで通う理由になったし上京したての頃の孤独を埋めてくれたという意味では感謝すべきなのでしょう

携帯も無い時代ですから、連絡が取れないと困るということでアパートにポツンと固定電話だけはありました

使うのは仕送りの催促の時と遠距離恋愛中で8歳年上の彼女に持たされたポケベルが鳴った時とあともうひとつ

寂しさ故に当時流行ったダイヤルQ2なるサービスにどっぷりハマり、1分100円ほどの料金でムフフな出会いを求める青年。NTTの請求が10万超えた時にはさすがに殺される勢いで怒られました。
成果は自分のオカンくらいの女性とアーノルド・シュワルツェネッガー出演の映画を観に行った事かなぁ。記憶力の良さって時に残酷です

上京する時に(神奈川ですが)

『これで布団やら家具、家電を買いなさい』

母親から持たされたお金は数日のうちに泡と化し

急いで日払いのバイトを見つけ、毎日のように夜勤で働き得た給料もすぐに消え

100円で買った胡麻せんべいとビスコが毎日の食事

ガスも止められ、どうしようもなく隣の畑から玉ねぎを盗み（後日謝った）生で齧ることも

それでもパチスロが打ちたかった

付属校の利を活かしそこそこ花形の学部に入学したは良いものの、学力がついて行けず友達もあまり出来なかった私にとって自分の居場所はあそこしかなかったのです

夏でも冬でも、春でも秋でも『もろびとこぞりて』

山佐の3号機スーパープラネットがその店にはありました

成立ゲームしか出ないという枠上7なんて知りません。せいぜいベルの菱形と中右リールの7ケツテンパイくらいなものです

他にも魅力的な機種はあったのでしょうが、不思議と憶えていないんですよね。入店するとスープラへ一直線でしたから

山佐伝統のノッカー音がいつも心地良くて

JACゲーム中のキンコーンキンコーンや

小役が揃った時に払い出しのベルが鳴るのですがそれもまた好きで

ウェイトかけて回すとリールが右から順に回り始めるところとか

全図柄がCAST(キャスト)となりリール横のパネルに紹介されてたり

出目、制御は詳しくないですがパチスロを楽しむことはそれだけではないってことを教えてくれた台だったのかなと思います

深夜のコンビニのバイトを始め、月に20万ほどの給料を稼ぐようになったにも関わらずその殆どがぱちんこパチスロ麻雀競馬。ギャンブラーとして破天荒に生きる事がカッコイイ！と人生すでに終わったような思考で本業を疎かにしてしまう僕は、この頃から明るい未来なんて無かったのかも知れません


【スライディングドア】


若い頃に観た映画をこの文章を書きながら思い出しました

ある女性が主人公で自宅へ帰る地下鉄の電車に間に合った時とそうじゃなかった時のその先の話が同時進行で描かれます



あの時、あの店に行かなかったら今ごろ僕はどうなっていたでしょう

布団と白物家電が買えたかな

ビスコで過ごす日々にもならなかったかもしれない

真面目に大学通い誰もが羨む学校イチのマドンナを射止め、素敵なキャンパスライフを過ごしていたかな

まぁ、彼女のことはホントなんですが



進学就職結婚に限らず、人生の分岐点なんてたくさんあります

それこそ今日も明日も明後日も

ミスチョイスではない、何度選択を迫られても僕はきっと今と同じ人生を歩んでいると思うんですよね

後悔？無いですよ。反省しなきゃいけないことは山ほどあるのですが


私にとってあの場所は、若かりし頃の馬鹿をやった思い出の地

今でもたまに訪れるのは、もうあんな無茶はするなよ。と自分への戒めの為でもあります

ずっと営業を続けて欲しい大切な場所です。

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