あのときオレはクズだった　第12回

田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

突如としておとずれた無職になる大チャンス。仕事なんてクソ食らえっ!!

　朝から夕方までハムの配達をして仕事が終われば閉店までビーマックスを打つ、そんな二刀流生活をしていた20歳の冬。すでにビタ押しをほとんどパーフェクトでできるようになっていた自分は、総回転数のわからない、ビッグ回数だけしか表示されないデータカウンタの店。そこで、空いているビーマックスを適当に打っているだけで、そこそこ勝てるヌルい生活を送っていた。

　毎日のようにパチスロが打てて、たまに飲みに行く金もある。仕事をしているからか実家の両親も妙に優しいし、家事や洗濯などをする必要もまったくない。これで彼女でもいれば、おそらく自分は日々の暮らしに満足し、結婚していまでも愛媛に住んでいたことだろう。そう考えるとモテなかったことが人生に大きな影響を及ぼしたと言えるが、もうひとつ影響を及ぼしたのが、毎日のように配達の冷凍車の中で聴いている、ローカルのラジオ放送だった。

　月曜から金曜の、朝9時から16時。そのほとんどを車内で過ごす生活を送っていたわけだが、いわゆるCDなどで聴くミュージシャンの歌にまったく興味のない自分にとって、車内での楽しみはラジオのみ。地元でちょっと有名なおじさんが、帯で放送しているラジオを好んで聴いていたのだけど、そこにちょくちょく、バカが出てくるのである。

　愛媛出身でいまは大阪で活躍しているミュージシャンの●●さんです！　だとか、東京で役者をやっている●●くんです！　と紹介されてしゃしゃり出てくるバカ。正直、愛媛出身どころか名前も代表作もまったく耳にしたこともないバカが、紹介されるがままにラジオに出演してきて、こういうバカに限って、そのラジオで偉そうなことを語り始めるのである。

　いや、俺らのバンドも昔は愛媛の小さいライブハウスでやってたんだけどね。たまにそこで凱旋ライブとかやると、ああ、これが俺たちの原点だなって思うんだよね。ここがあったからいまの俺達があるって。愛媛にいるいまの若い子らって、そういうこと考えてるのかな。やっぱり夢を見るからこそ成功するんだって、そう思うんだよね。

　永ちゃんのような成功を収めた男が語るのなら、納得する。でも、どこの馬の骨かもわからないバカが、なにを言っているのだろうか。なにを偉そうに語っているのだろうか。自分をスターかなにかだと思っているのか知らないけど、お前らのことを知っているのなんて、愛媛の中でも親族と同級生くらいだよ？

　そんな放送を聴きながらハムを配達しているうちに、なんだかバカらしくなってきた。いや、ハムの配達そのものは別にいいのだけど、なにも成し遂げていないバカに、ラジオ越しで見下される生活が急にイヤになってきた。ちょうどそんなときに、とある出来事が起こったのである。

「田中～、今月の給料を払うの、ちょっと遅れるけんのう」

　少し前に専務からそんな言葉があり、別にビーマックスで勝ったお金があるし、いいですよと待っていたのだが、いつまでたっても給料が払われないのである。さすがに1ヶ月ちかくが過ぎ、その次の給料日が近づいていたこともあって、たまたま会社に顔を出していた社長にたずねてみた。そしたら……。

「社長、給料いつくれるんすか？」
『もうちょっと待てや。払わんわけじゃないんやけん』
「もうちょっとって、もうすぐ1ヶ月ですよ。じゃあ、今月末には2ヶ月分くれるんすか」
『いっぺんに2ヶ月は無理じゃろ。常識を考えんかい、常識を』
「はぁ？　おっさんいい加減にしとけよ。給料払わんほうが常識的におかしいやろ」
『おどれ、誰に口きいとんじゃ』
「お前じゃボケ。給料払わんやつは社長でもなんでもないやろが」
『お前、わしの知り合いには若い奴らがようけおるんど。そいつら呼ぶど？』
「電話貸しちゃるけんいますぐ呼んでみーや。そもそも、昼間から酒飲んでべろべろのやつが運送会社の社長って、なんじゃそれ。オレ、もう明日から会社こんからな」
『お前、それは困るぞ。お前しかハムの配達する奴はおらんのじゃ』
「お前が酒やめて朝からハム配れ、ボケー」

　仕事なんて最初からやりたくてやっていたわけじゃないから、理由さえあればヤメるのに躊躇はない。しかも、自分ではなく会社のせいでヤメるのだから、両親にも面目が立つ。まさに最高の展開で無職になることができたわけで、明日からは思う存分ビーマックスを……いや、待てよ。このまま実家にいたら、またどうせ仕事をやれと両親からプレッシャーがかかる。それならいっそ、愛媛を出るか。大阪はもういいから、次は……。

　その一週間後、自分は東京の亀有にある1Kのボロアパートで生活を始めていた。全財産はたったの7万円。負ければ即引退の、絶対に負けられない戦いが始まったのである。

この頃打っていたアレックス

【メーカー】アルゼ【販売年月日】１９９９年１月【タイプ】Ａ【特徴】アルゼのシンボルキャラクターを採用
【田中氏のコメント】
この当時のメイン機種は引き続きビーマックスだったのだけど、それと平行して打っていたのがビーマックスとまったく同じ配列で1999年の1月に登場したアルゼの『アレックス』だった。23時に閉店のパチンコ屋。22時30分まではビーマックスを打ち、残り30分になるとボーナス確率の軽いアレックスに移動するというハイブリッドな立ち回りを毎日行っていた。合言葉は、「閉店前のアレックスはよく当る」。

クズの成績表：★★★☆☆（訣別のハム）

「最高の展開で無職」、こんな日本語ってあったっけ。
まぁすぐに辞めるだろうとは思っていたが、その理由は推測できなかった。クズの社長はやはりクズだと言うことか。。。

「電話貸しちゃるけんいますぐ呼んでみーや」の件を読んでちょっとビビリました。。。今までクズクズ言っちゃってごめんなさい。
あ、でもクズだから多分こんな事言ってないんでしょ。ウソなんでしょ。そうだ。そうでしょ。

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田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）: 代表作：あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

パチスロ好きが高じて21歳の時にパチスロ必勝ガイドにてライターデビュー。若手時代は勝ちキャラだったものの徐々にクズっぷりを発揮し、昼はギャンブル、夜は酒をモットーに活動を行う。30歳で思い立ってフィリピンに英語留学へ行き、2012年の2月より世界の子ども支援を行うNPO法人セブンスピリットを設立。フィリピンのセブ島でNPO活動をしながら執筆も行っている。