しくじり店長・第63話『玉難』

元・店長カタギリ元・ホール店長カタギリのしくじり店長

パチンコの稼働を上げるには、いったいどうすれば良いのだろう。

　然るべき調整内容と告知さえしっかりと行えば瞬発的な集客にだけは期待できるパチスロと違って、パチンコの稼働状況を改善させることは容易では無い。それは海物語やジャグラーといった常連さんの居場所を無くしてしまった数多くのホールの惨状から、そして何よりも自身の手痛い経験から学んだ事実である。自店から一度でも離れてしまった年配の常連客は、二度と取り戻すことが出来ないのだ。「ならば、やはりパチスロと同じ手段を使うしかないな。そこに数少ない常連さんを巻き込もう」パチンコのシマにも一目でわかる良調整台と告知を用意して、そのシマで常連さんに遊技してもらおう。まずは看板機種の育成を行い、ホール側の方針をお客様に伝えることが稼働改善への近道となるだろう。そう考えた私が選んだのは『CR大海物語2』と『CRヱヴァンゲリヲン7』の2機種。

　平成24年当時、多くのホールで集客の柱となっており、かつ自店の設置台数も多いヱヴァと大海を育成機種に決めた。だが、この2機種を赤字調整にする以上、そのしわ寄せが少台数機種に集まるのは必定だ。思い思いに好きな台を打っている常連客の顔を思い浮かべると気は重いが、それでも店の意図を打ち手に明確に示すためには、これしか手段は思い浮かばなかった。「お、良いね！　店のメイン機種を提示するのは大事だからね！」ヱヴァ7と大海2の導入を主張した部長だ、説得するのは実に簡単だった。それに現状、この店で稼働の軸となり得るのは、やはり大海2とヱヴァ7だけしか無い。さあ、言っちゃった以上、あとはやるだけだ。何よりも、個人的に大好きなヱヴァシリーズのパチンコだ、嫌でも気合は入るってモンだ。ここで必死にならないでどうする、たぶん最後の勝負所になるぞ。そう自分に言い聞かせながら、店内装飾品の発注や販促物の手配を行う。もちろん事前告知、遊技台のメンテナンス、そして大事なのは常連客への声がけだ。全ての準備を滞りなく行い、後は当日の調整を残すのみ。勝負は週明けからだ、やってやるって！

……気合一発、再起を賭けて天に投げた賽の目は、その意気込みを嘲笑うかの如く裏目に出た。

　万全の調整で迎えたイベント当日、店頭に集まったのは12名の見知らぬ若者たちだけ。その数は、自店の大海2とヱヴァ7の総台数とピッタリ同じ。何度も声をかけた年配の常連客の姿は、どこにも見当たらない。そして迎えた開店時刻と同時に、彼らは両機種に向かって脇目も振らずに猛ダッシュ。その後、最後尾からゆっくりと入場してきたリーダー格と思われる長身の男によって行われた全台のチェックが終わると、若者たちは作業開始だと言わんばかりに一斉に玉を弾き始めた。そう、告知によって集まったのは常連客では無くプロ集団だったのである。連チャンや大ハマリにも一喜一憂することなく、携帯電話を操作しながら黙々と打ち続ける若者達。やがて満席のシマと、足元に積み上がって来たドル箱の山を唖然としながら眺めながら、遅れてやって来た常連客が口々に叫ぶ。

「なんだこれ？　見た事も無い客にばっかり玉ァ出しやがってよぉ！」
「こんなことばっかりやってっから、客が増えないんだよ！　相変わらずしょーもなぇ店だなあ！」

　だから昨日も言ったじゃないですか、明日は朝からしっかり並んで大海2かヱヴァ7に座って下さいねと。皆さんの耳元で、私がしっかりとお伝えしたじゃないですか。そう言い返したいのを堪えつつ、明日からもしっかり出しますから狙ってみてくださいよと話しかけると、文句を言っていた年配の常連客達は「ウソつけ！」とでも言わんばかりに顔を歪めながら無言で立ち去ってしまった。本当は、貴方たちのために用意していた台だというのに……。その夜、真っ赤なインクで染まった調整表を見ながら部長に本日の一部始終を報告すると、「……まぁ、打ち込みは目標通りだから良いよ。プロ連中が玉を積んでいたなら、見た目も良いだろ」何か別の言葉を隠しているような口調で、明日以降も予定通りの調整を行うよう私に命じた。

　その翌日も、12名の若者達はしっかりと店頭に並んでいた。そこに常連客がいないのも、昨日とまた同じ。前日と変わらぬ風景のまま閉店時刻を迎えたが、ひとつだけ違っていたのは昨日あれほど文句を言った常連客たちの姿だ。彼らは今日、一言の文句も言わなかった。ただ、白けたような顔をして若者で埋め尽くされたシマを遠巻きにして眺めていただけだった。出玉は前日と同様のお祭り状態。終日ゼロ稼働の台すら存在するバラエティコーナーとは対照的に、2日連続で景気の良い大当り回数が並んだデータランプが、店内の異常な光景を象徴していた。そして、さらにその翌日も彼らはやってきた。ここで私はリーダーとおぼしき長身の若者に声をかけた。

「すみませんが、ウチの店がプロとみなしたお客様は入店をお断りしていますので、お引き取りください」

毅然とした態度で迫る私に対して、相手も一歩も引く様子を見せない。お互いに集団の頭だ、黙って引き下がる訳には行かない。ここからは駆け引きだ。

「いやいや、俺ら何も悪いことして無いっしょ？　しっかり店のルールも守っているし、何が問題なの？」

　個人的には全く同意見だ。彼らは店が用意した台を、決められた通りに打っているだけ。ただ、店の思惑に反した結果になっているだけである。常連客に打ってもらいたいという店側の、いや、私の願望だけで彼らをねじ伏せようとしているだけで、ある意味では出玉アピールに協力してくれるのを手伝ってくれている、そう解釈することも出来るのだ。だったらいっそのこと、ぶっちゃけてしまえば良いや。私はリーダー格の若者を店外へと誘い、泣き落としで口説き始めた。

「いや～、正直ウチも厳しいですからねぇ……　わかりますよね？　他のシマはほとんど稼働も無いし。今日まではそちらも頭数を揃えているから仕方ないけど、明日からは人数を減らしてもらえませんか？」

　この条件を、長身の男は実にあっさりと受け入れた。わかりました、明日からは６人だけ連れて来ます、そう約束してヱヴァ7のシマへと戻って行った。この条件を相手が受け入れるのは想定内だった。下手に揉めたら自分達の食い扶持が無くなるだけ。向こうもしっかりと引き際は弁えている。しかも、裏を返せば明日以降も調整状況が変わらない事を店と約束したようなものだ。ヱヴァ７のシマの盛り上げはプロに任せて、まずは数少ない常連客を大海2のシマへ。それが私の狙いだった。

　そしてイベント開始から4日目、この日の並びは6名。約束を守った長身の男を含めた、ヱヴァ7狙いの若者たちだ。当然のように朝から埋まったヱヴァ7のシマとは対照的に、昨日までの光景が幻であったかのように無人の大海2のシマ。誰～もいない海～、という昔の歌謡曲の歌詞を口ずさみながら、その状況を眺めているうちに、常連客がひとり、またひとりと店内にやってきた。

「お客さん、今日は大海2を打って下さいよ、大海っ！！」

悪質なキャッチセールスのような強引な口調だが、そうでも言わなければ意地でも座るまい。店側の思惑に乗ってたまるか、中には頑固な性格のお客さんもいらっしゃるだろう。まずは女性客から声をかけて座ってもらい、その光景を指差しつつ、さりげなくオッさん連中にも呼び掛ける。「ホラ、さっきのオバちゃんもさっそく出ましたよ？　今日も良く回りますから大海2、打ちません？」打てばわかる良調整台、あとはしっかり粘ってもらうだけ。そう、思ってはいたのだが。やはり物事はそう上手くは運ばなかった。私は改めて、パチンコの集客の難しさを思い知らされるのである……。

カタギリ・今週の1枚

『CR地獄少女　宵伽』が最近のお気に入り機種でございます。初当りの16ラウンド確変の割合が31.5％という驚異的な数値で導入前から話題になりましたが、噂通りに甘い挙動のようですな。

私も連チャンには恵まれないものの、何とか勝ち越せていますからね。ま、パチスロの地獄少女宵伽ではコテンパンにヤラれてますが……

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この記事へのコメント（2 件）

元・店長カタギリ: 投稿日：2018/03/04; 銀チャさま。

お返事が遅れてスミマセン！
店長なんて何をやっても結局は文句を言われる立場なのですが（苦笑）、自分の思いが伝わらないというのは客商売にとってはなかなか辛いものがありましたね。
この物語ももうすぐ終わりになりますので、よろしければ最後までお付き合いくださいませ！

銀チャ: 投稿日：2018/02/09; 難しいなぁ。

オススメしたらしたで打たないで、出ない台にボヤく…

うーん。厳しい_:(´ཀ`」 ∠):

元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。