『マジネタ』～インディのランプ攻略

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

「ぺぺぽぽぺぽ～」

店内にオカリナの音色が響き渡る。
俺は第3停止を止めるな否や席を立ち、
トイレへと駆け込んだ。

便意など微塵もない。ただ、真正面からAT抽選の結果を受け止めるのがイヤだった。ドットに停止しているのは「クラゲ」か、それとも「A」か。「V」であれば最高なのだが…。

そろそろドットのルーレットが終わった頃だろう。おそるおそるトイレを出ると、その瞬間、遠くから小さく「スーパーATゲットォォォ～」の声が聴こえてきた。こ…これは俺の台じゃないか？そっと柱の陰から自分の台を覗くと、ドットには「V」の文字が！俺は柱の陰で拳を強く握り、喜びを噛みしめた。

4号機「インディジョーズ2」

2001年の2月に登場。ロデオ発のパチスロ第2弾で、ロデオ初のAT機でもある。機種名に「2」と付いているが初代はナイ。機種名もダジャレのようだが、これが隠れた名機なのだ。なお、スロッター間での愛称は「インディ」だった。

インディは獣王と同じA＋AT機で、スーパーAT「インディチャンス」中の消化手順もサバチャン中と全く一緒。押し順ATでなく色押しATだ。BIG中のリプレイハズシやAT中の1G増やしまで一緒という、兄弟機のような存在である。しかしながら、ATの抽選システムは全く違う。

獣王もインディも、通常時は超高確率で12択15枚役が成立している。インディの場合、左リールがキース(シャチ)・ピーチ(イルカ)・インディ(サメ)の3択で、中・右リールがそれぞれ赤or青チェリーの2択だ。

獣王のAT抽選は完全ハズレ(純ハズレ)時に行われるが、インディは通常時の15G周期で行われる。いわゆる周期抽選だ。その15G間で獲得した「金貨」の数で、周期到達時のAT当選率が変化する。

「金貨獲得ゲーム」は12択15枚役成立時に発生する可能性がある。第1停止でドットにキャラのシルエットが出現すれば、金貨獲得ゲームかつ第1停止正解確定。第2停止でもキャラが出現すれば、第2停止も正解。第3停止も正解し15枚役が入賞すれば、ドットの宝箱から金貨が出現する。1Gで獲得できる金貨は1枚のみで、ドットに貯まるのは2枚まで。つまり金貨0～2枚でAT抽選を受けることになる。

15Gおきに訪れるAT抽選は、金貨の数と当該ゲームの成立役を参照し行われる。金貨0枚ならほとんどノーチャンスで、1枚でも頼りない。2枚あってやっと勝負になると思っていい。しかしAT抽選ゲームでリプレイが成立すれば、金貨が何枚であれほぼノーチャンス。金貨が0～1枚ならAT当選の可能性はゼロで、2枚でも絶望的。金貨2枚かつ完全ハズレor12択15枚成立なら、やっとAT当選のチャンスとなる。

15Gの間は金貨獲得にアツくなり、抽選ゲームではハズレor12択15枚成立を願ってレバーを叩く。俺はこのAT抽選システムが大好きだった。

そしてインディを語るうえで欠かせないのがBGM。BIG中のBGMが、当時としては珍しいジャズ調なのである！音楽は全く詳しくないのでトランペットなのかサックスなのかさえ分からないが、金管楽器の音色が、それまでのパチスロにない大人の雰囲気を醸し出していた。また、AT抽選のルーレットの豊富さも、俺が虜になった原因の1つ。AT抽選ゲームで出現したキャラにより、発展するルーレットの種類が変化。もちろんルーレットの中には発展しただけで激アツとなるパターンも！最終的に「A」が止まればAT1セット以上が確定し、「V」が止まれば3セット以上が確定する。

ATは1セット10Gだが、獣王と同じ条件の1G増やしもアリ。1G増やしに成功すれば、主人公とヒロインが「やったね！」の音声で祝福してくれる。AT終了後に残りセット数があれば、再びATが発動するといった仕組みだった。

獣王にドハマリした俺は、ごく自然にインディにもドハマリ。休日なら終日インディを打ち倒し、バイトが遅番なら朝イチから、早番なら夕方からインディと向き合った。ちなみに戦績はヒドいもので、いくらムダにしたか考えたくもない。もはや勝ち負けなどどうでもよく、ひたすら金貨を集めてAT抽選を受けることだけを考えて生きていた――。

そんなスロニート生活は、学校の実習によって終わることとなる。1週間ほどロケが続き、その間、全くパチスロに触れられなかった。そして実習明け。学生映画の撮影と言えど、ロケは過酷を極める。助監督を務めていた俺は、役者さんが汚れないようマット代わりに自分のジャケットを差し出すことも珍しくなかった。そんな調子だから、実習が終わる頃には私服がボロボロに。実習を終えた俺は、馴染みのアパレルショップへと向かった。

「おう、ラシちゃん久しぶり」

この人は通称「ボス」。神奈川に2店舗、東京に1店舗を展開するアパレルショップのオーナーだ。年齢は推定40代だが、ファッションは渋谷の若者とほとんど変わらない。いかにも「昔やんちゃしてました」という面構えだ。いや、正確に言えば現役でやんちゃだった。駅前の路上に黒人が店を出そうものなら、スグに飛んで行って殴りかかる。ウワサによれば本職の怖い人とも繋がりがあるとかないとか…。

――「久しぶりっス」
ボス「今日はなに探しに来たの？」

――「Tシャツとシャツが欲しいっスね」
ボス「ちょうど新作が入ったところで」

――「それが…実習の製作費で使っちゃって新作は…」
ボス「そっか…あ、そういえば！」

――「なんすか？」
ボス「ラシちゃんスロット打つよね？」

――「ええ、打ちますけど」
ボス「そういやダチからメール来てたな」

――「どういうことスか？」
ボス「攻略法らしいんだけど、俺打たないから分からなくて」

――「こ…攻略法!?」

ああ、これだから打たない人は面倒くさい。パチンコ・パチスロには、なにか攻略法があると思っている。そんなのが有ったら苦労しねーよ。だいたいが詐欺なの！

ボス「なになに…15枚役をテンパイさせて…」
――「機種名とか書いてあります？」

ボス「う～ん、これか？　イン〇ィー・ジョー〇ズ」

イン〇ィー・ジョー〇ズ!?　この頃、まだあの名作映画のタイアップ機は出ていない。つまり、あのインディでは？脈が急激に早くなり、体温が上がるのを感じた。

――「ちょ、ちょっと見せてください」
ボス「プリントアウトしてあげるよ」

ボスから受け取ったプリントを見てみると…そこには「アーチランプ攻略」の文字が！なになに…

①中押しで上段に青7を止める
②左リール上段に青7を止めた瞬間、アーチランプの光り方を見る
③光り方に応じて右リールの青or赤チェリーを狙う

――「う～ん…」
ボス「どう？できそう？」

――「たぶんガセネタだと思いますけど」
ボス「そうなの？損しないんなら試してみたら」

――「そうですね。ちょっとやってみます」
ボス「いっぱい勝って、ウチでたくさん買ってよ」

――「そうスね！ちょっくら行ってきます」
ボス「え？ Tシャツとシャツは？」

――「また買いに来ます！」

おそらくガセネタだろう。しかしその機種がことインディとなると、試さずにはいられない。もし本当なら右リールの2択の正解が分かる。つまり15枚役の12択が、半分の6択になるということだ！とても地味に聞こえるが、コイン持ちが跳ね上がり、金貨獲得率も大きく上がる。要するにAT当選率が格段に上がるわけだ。そんな攻略法がホントに…!? 店を飛び出した俺はスグに原付に跨り、いつものホールへと向かった。すると――

インディのアーチランプにシールが貼ってある！光を通さない赤いテープが、アーチランプを覆っているではないか!!　あの攻略法はマジネタだったのだ。そんな大事な時期を、俺は実習で潰してしまったのである！バイトに出ていれば気付けたハズなのに、実習のためバイトも休んでいた。まさかこんな攻略法が現実にあるとは…。いや待て、チャンスはまだある。おそらくアーチランプに貼ってあるテープは、メーカーか販社から支給されたのだろう。そしておそらく店員が貼ったハズだ。綺麗に貼れず、隙間からアーチランプが見える可能性も…。

インディに座っている客の様子を観察していると…やはり！しきりに筐体左上を見ている。アーチランプを見ている証拠だ。イケる、まだ間に合う！急いで空いているインディに座り、サンドに千円札を投入。プリントに書かれた手順を実践し、アーチランプを確認すると…ああ、見える！アーチランプとテープの隙間から、光り方がかすかに見える!!　すまんなマイホよ、抜けるだけ抜かせてもらうぜ!!

20分後――

ドットにはAの文字が浮かび、俺は攻略法が実在したことに感動と興奮を覚えていた。あんなに遠いと思っていたATを、まさかこんな身近に感じるとは！そのときである。肩をトンと叩かれ振り向くと、そこには店員N(※9/5更新の『ガキ』参照)の姿が…。

N「お客さーん、困りますね」
――「…なに？」

N「知らないわけねーだろ？」
――「ちょ…ほかの客もやってんじゃん！」

N「どこで？」
――「ほら、そこで…あれ？」

気付けばインディのシマは俺1人に。どうやらNに注意され、ほかの客も帰ったようだ。

N「やらなきゃ打っていいよ。ヤルんならヨソ行きな！」
――「はい、すいません…」

こうして俺が初めて触れた「マジネタ」は、たった10分の実践で終了となった。当然ほかのホールも回ってみたが、どこもすでに対策済み。情報の早さがいかに重要かを思い知らされた一件だった。あの頃にインターネットがあれば、あのネタの寿命はもっと短かったに違いない。なお、インディにはもっと大きな攻略法が発覚するが、それはもう少しあとのことだ…。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。

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