時代～鈴虫の一分～第9話～ハーデス

鈴虫君時代～鈴虫の一分～

今も昔も高設定を掴むことが勝利への近道であり、それを掴むには設定上げ狙いか、据え置き狙いか、高設定が投入される場所はどこなのか、いわゆるホールのクセを読むことが重要なのは時代が変わっても基本は同じ。しかし、昔は高設定が投入される場所を読む、その過程においてさまざま戦略があったのである。

勝負ごとにおいて、戦術や戦略というのものは整備されていくもので、野球であれば先発投手がひとりで9回を投げ切る時代から中継ぎ、抑えと分業制になったり、サッカーは縦にボールを蹴るのではなく、横にパスを繋いで崩すバルサスタイルが主流になったりと、古いスタイルは消えていくもの。昔の常識は今の非常識。そんな時代の話をいくつか紹介したい。

その昔、私がスロ屋で無双していたころ、言い換えるならマリオがスターを取った状態みたいにパチスロで勝ちまくっていた。主力はアルゼ（現ユニバ）マシンで、花火、大花火、サンダーVなどがメイン。そのころのアルゼ機種は、クレジット精算ボタンを押すと、クレジット機能がOFFになるのだ。3枚までは受けつけるが、それ以上投入すると下皿に戻ってくる状態である。

もう一度、精算ボタンを押せば元に戻るわけだが、閉店前にすべてOFFにして帰宅するのが私の日課だった。見た目はどういう状態かというと、普段はクレジットランプに表示される「0」の文字が消えている状態だ。打ちなれている人ならひと目で強烈な違和感を受けることだろう。

べつに嫌がらせでやっているわけじゃない。クレジットがOFFの状態で設定変更をすると、あら不思議。クレジットがONの状態に戻るのである。つまり、翌朝にシマへ行くと「0」と表示されている台が設定変更をした台ということになるわけです。あそこと、あそこと、あそこ、頭の中に場所をメモって、あとはOFFの台をONにマジシャンのような手つきで戻して証拠隠滅だ。

しかし、この戦略が通用するのはぬるいホールだけ。店員に気づかれたら終わりで、場合によっては罠を仕掛けられるケースもある。似たような話で、台の開閉部分に小さな紙を挟んでいく作戦もホールによっては有効だった。今では信じられない話だが、昔は閉店後の台の開け閉めは設定変更時ぐらいと決まっていた。挟んだ紙がなくなっていれば、つまり設定変更…なんてアナログな戦略なのだろう。

いまだに過去を引きづっている人の多い戦略が、液晶のデモ画面ズレではないだろうか。朝イチに全台揃っているはずの液晶デモ画面がズレていたら、開店前に台を開けた、つまり設定変更をしたと仮定する話だが、これはもう今ではまず通用しない古い作戦で、ドラえもんの声が大山のぶ代ではないことに違和感を受けることぐらい時代についていけてない。

今は昔と違って、開店前にすべての台を開けているホールが多い。開店30分前にスタッフが扉を全台閉めて、一斉に電源をONにするパターンが大半で、当然、設定変更はそれ以前に行われているわけだ。稀に液晶ズレが起こるのは、ホール内の配線の関係か、台の清掃などで開けたことが原因で設定変更とは一切関係ない。

………だけど、気になっちゃうんだよなぁ。店長クラスになると昔を知っている人だから、何かのヒントなんじゃないかって。大山のぶ代の声を引きづっている人の可能性もあるわけでしょ。特定日にハーデスの液晶が一台だけズレていたら気になるじゃないですか。

店長の気持ちを代弁するとこうである。おいおい、今日は10日に一回の7のつく日だぜ、ベタピンなんてそりゃねぇだろ。FAで森福、山口、さらには陽まで獲れそうだし、来年は優勝でしょ。ちょっと早いけど、優勝パーティーだ。

巨人ファンの店長が一足早いクリスマスプレゼントをくれたってわけ。そりゃ打つでしょ。

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ヘルゾーンにすら入らなかったよ。時代に取り残された男がまたここにひとり。なんでも許されるんだったら、私はスモールライトを使って店内に忍び込み、シマの端っこで設定変更の瞬間を盗み見しますね。